未来が不安な人は、今を生きたほうがいい。
そういって父は私に本を手渡した。
父は早期の癌持ちだが、不安障害にかかった私にほほえむ姿は、まぎれもなく父だった。
普段の老いを感じさせる姿は、そこには微塵もなかった。
その日、私は自分が産まれた病院が昔あった通りの花屋でカーネーションを買った。
黄色とオレンジ、元気がでる色を選んだ。
数年ぶりに訪れた実家は少しくたびれた感じになっていた。
母は庭を案内してまわり、豊かな自然の中で嬉しそうだった。
私が育った家、そこに飾られていた造花のバラは、花束と全く同じ色だった。