WBSとケーキ

スケジューリングの原則の一つは常に自由度が減らない方向に選択を行うことである。ケーキ作りのスケジューリングには材料ごとの「時間変化に強い性質、時間変化に弱い性質」に対する強い意識が入っていると思われる。


◇1.卵を室温に戻しておく
湯せんにかけて泡立てる際に、冷えた卵だと温度変化が急になるため、室温に戻しておく。
<<室温に戻すこと=泡立てに着手するタイミングの自由度をアップ>>  
◇2.オーブンの予熱
15-20分かかるが、保温性の高いオーブンならば180度以上にした後の維持は容易。
<<予熱で、型と生地を入れるタイミングの自由度をアップ>>
◇3.砂糖を計量して用意しておく
卵液に砂糖を投入する際に、計量をしていては泡立てに中断が発生する。事前の計量が必要。
<<中断が好ましくないタスクの前準備作業はすべて事前にすませておく>>
◇4.粉をふるっておく
粉をふるったあと、粉と空気が混ざった状態は一定時間維持される。
<<卵液に粉を入れるタイミングの自由度をアップ>>
◇5.型にバター(無塩)をぬり粉をかけておく
型の準備をしておけば、生地を入れるタイミングの自由度がアップする。バターがとけない温度の場所に置いておく。
<<生地を入れるタイミングの自由度をアップ>>
◇6.連続タスクの実行。

    1. 湯せんの中で全卵を泡立て、適宜砂糖を投入する。
    2. リボン状になったらふるっておいた粉を複数回にわけて投入する。
    3. 気泡がつぶれないようにさっくり木べらで切るように生地をつくる。
    4. 準備ずみの型に流しこみ、予熱したオーブンで30分焼く。

スポンジケーキは生地の気泡の状態がキメ細かいほど仕上がりが良い。生地は作業中断があると、劣化(ダレる)しやすい。よって、スポンジケーキのスケジューリングは、生地が最高の状態のままで最短時間で中断なく予熱済みのオーブンに投入することを最優先としている。


現実のプロジェクトでは下記の制約を考えることになる。

  • 別チームの成果物に依存するタスク
  • 自チームの成果物を受け取る別チームがあるタスク
  • 作業要員の極端な増減は契約、教育の観点で難しい。一定人数に一定量の作業がある方が一般には簡単である。
  • タスクの実行にあたって相談する相手が多い分け方をすると、コミュニケーションコストが増えて仕事が想定より遅れる。
  • 人の頭と体はそれほどマルチタスクではない。聖徳太子はいない。
  • 人は間違えるものである。定期的に状況を確認(チェックポイント)できること。リカバリーをする道筋が何通りかあることが望ましい。


こうしてみると、依存度が高いタスク、リスクが高いタスクを先に解決するのは、時間とともにプロジェクトの自由度が減らないように、常に常に意識しているためであることがわかる。また、週報とは、一週間の単位で、状況をチェックし、リカバリーの必要があるかどうかを確認するためのものであることがわかる。

さらにもう一つ述べておきたい。WBSには最終成果物はどんな部品から構成されているか、また、中間部品(中間成果物)は何か?という成果物を分割していく思考にもとづくタスクの洗い出し法がある。たとえばクルマはボディーとシャシーとエンジン、ギアボックス、タイヤでできている。しかし成果物指向の分解には限界があり、実際にカレンダー上に配置するためには、タスクの依存関係を見るだけでなく、制約条件を考えて並べる必要があることに注意しておきたい。ケーキ作りでは、予熱や生地のダレを防止する工夫が必要であった。手順やプロセス、制約条件を考慮して、はじめて作業カレンダーが完成する。