1995

1995年の夏。私はパソコンショップでバイトしていた。

バイト代で米国製のPC/AT互換機を買って、すぐにしたことはSlackwareのインストール。OS無しのオプションで買えて、Linuxがちゃんと動くSCSIカードを選べるGateway2000は最高だった。カーネルコンパイルするとどきどきした。

今日、本屋で日経Linuxが懐かしくなって買ってしまった。ビジネスワードのない、ホビイスト向けの内容が嬉しい。私は、大学のワークステーションNetNews、fjのおかげでLinuxに興味をもったんだと思うし、Linuxgccがあるからやみくもにフリーソフトコンパイルしまくることができたんだと思う。そして使いやすさが気になってウィンドウマネージャにのめりこんだりしたんだとも思う。

あの当時、Microsoftが邪悪だと考える気質に私も染まっていた。Windowsは使いやすさのために多額の投資をしている。だからLinuxがそれを追い越すのは困難だよ、というビルゲイツの発言は、気にはなりつつも無視していた。

だって、Linuxの方がはるかにWindows95よりも安定していたし、プログラミングの自由度のある環境だったから。

過去の製品との互換性を維持しつづける。あるいは競合する製品を完全にコピーし、時には不具合として知られている動作まで忠実にコピーする。そういった苦労にはお金が沢山かかるし、そういった作業の積み重ねでWindows95WindowsNTは作られている、ということを理解できていなかった。

Windows95は世界中で安価なパソコンとして普及していたPC/AT互換機ではじめてGUIがまともに動くOSであり、かつ16bitの資産も継承できるOSだった。だからこそ皆熱狂して行列したんだ。

Linuxには大学や研究所の口うるさいシステム管理者から自由になれること、そして、エンジニアリング向けという理由に基づくEWSの高価さから自由になれること、その二つの魅力があった。Windows95と比べると静かではあったけれど、やっぱりinternetの中で行列ができたんだ。

Windowsの美点のひとつは苦しくとも過去の資産を守る姿勢にある。またどんな会社よりもパソコンを当たり前に誰もが使えるようにすることにお金をかけ続けている。だから顧客は安心できる。

Linuxの魅力は既存の枠組みとは無縁の自由さ、ホビイストとしての楽しさからきているものがあるんじゃないかと思う。それだけじゃないと思うが今はよくわからない。

お金をもらうことはありがたいことだけれども、客がそれで安心を買っている場合は、なかなかに引き受けがたいこともある。重たい時もある。人のライフプランを考えて保険を売る保険のセールスと、無償で人の人生相談にのる人、どっちが信用に値するか、片方だけが正解なんてことはこの世の中ではないんじゃないか。