インフレとデフレ、どっちがマシか。

◇はじめに

吉野家とマックが安くなり続ける、でも給与もカットされ続ける生活がデフレ。インフレでは、給与は下げどまり、食費、光熱費、交通費、娯楽関係も下げ止まり、じわじわ上がりはじめる。

私は今30代。自分の持ってる現金の価値が目減りすることより、家族、兄弟、そして今の10代、20代にまともな職があるほうが嬉しいというのが私の軸足である。10年前はテレビでヘンな評論家がデフレといえばスパイラル、インフレといえばハイパーと過激な形容詞をつけて人を脅かすのを黙って見ているしかなかった。現実の経済をたかが一つの政策でそんなむちゃくちゃに変化させられるほど日本の経済規模は小さくないし、政治も幼くはない。政策はマイルドにしか効かない。日本にないのは希望だ、といっていたのは10年前の話である。なぜ希望、期待が生まれにくいのか、その本当のメカニズムはよくわからない。しかし、高齢化社会にその一因があることは今は目に見えてわかるようになってきたと思う。

10年前のデフレで、やるせなさ、悲しみ、怒りの混ざったような感情で私が見てきたのは新聞記事に現れる日銀を擁護する記事である。マネタリーな手段でできることは全部やっている。これ以上日銀にできることはないと。しかし、私はバカだった。今でもそうだが、感情的な反発では意味がない。国民経済を支える彼らは賢く、責任感が強く、そして本当に冷静に物事を見ているはずだから。

◇デフレ容認からインフレ期待へ

昨年末から変化の兆しがはっきりわかるようになった。経済で言えば自民党小泉政権での活躍が目立った中谷巌氏、高橋洋一氏の論調が明らかに供給側重視でなく、需要重視になっている。また、政権与党となった民主党も第3の男、菅直人氏がサプライサイド重視の政策は不況下になじまないことを発言している。政治家の風見鶏的なポーズではなくて、民主党には新進党の時代から、需要重視型の経済学者の勉強会に出席している議員達がおり、彼らの動きがてっぺんにも届いていると嬉しい。菅氏は国民へのスポークスマンとして働いているのではなかろうか。

◇要点

日本で働く30代のサラリーマンの一人である私が問題、課題としているのは次の3点である。

1.マクロとミクロのシミュレーション結果を知りたい。

マクロでは、日銀が国債を買うことによる日本経済、周辺国の経済への影響をシミュレーションしたものを知りたい。輸出産業へのインパクトはどれだけあるのか。海外へ逃げるお金、円安の進行程度はどれぐらいか。対外債務はどうなるか。また、真の目的である、現金の価値を目減りさせ、現物の価値を上げることにより、今のうちに現物に変えておこうという心理によりどの程度の需要が喚起されるのか? 厳しくなる産業は何か、また、有利になる産業はあるのか?
 
私にはミクロの方がずっと大事で、若者世代でも不利、痛みは出るはず。いろいろな混乱もおきるはず。全体としてメリットがあるとしても、インフレターゲット策によるどんなデメリットがあるのか、可能性だけでも知っておきたい。

2.世代間闘争ではなく世代間協力

毎日新聞の紙面での山形浩生氏の指摘だが、デフレは老人に嬉しく、若者はつらい。インフレは老人に厳しく、若者に優しいとのコメントであった。きちんと高齢者向けの福祉を拡充するために税金を増やすと、それだけでは若者のフトコロはますますさびしくなる。福祉を拡充する分、若者のフトコロをあたためることも必要だ。インフレターゲット策は各世代が納得できることが導入の条件になりそうだと思う。長期にわたって自分の貯金の実際の価値が目減りしつづけることはリタイヤした世代には大きな痛みである。しかし、若者がパラサイトするのではなく、自立して共同もしくは近距離に暮らすことで高齢者と合算した家計を支えることができれば、若者の自立支援と、高齢者の福祉の両立が図れると期待している。

3.中央銀行の独立性と国民主権の両立

ヘンな日銀元凶論みたいなものにはダマされないようにしたい。時の政治家の意見に左右されすぎると規律が失われ、極端に走るのでよくない、という歴史上の知恵から中央銀行には独立性が許されている。近年それは更に強くなった。しかし、もしも中央銀行の目指すところが、長期的にみて国民の目指すところとズレてたら、それをどうやって防ぐのか。日本が誇るベスト&ブライテストの集まった組織だが、その彼らを国民がどうやったら頼もしいと思うようになるかは、私の世代が次の世代にバトンタッチするまでに解決したい宿題だと思っている。中学生でも三権分立は知っている。社会の先生がメディアが第4の権力と呼ばれていることを授業の合間に教えてくれたりする。それだけでなく、中央銀行がどんな権力を持った組織かということを、大人(親あるいは先生)がこっそり子供に教えると良いんじゃないか。たとえば、なぜ日銀総裁の任命をめぐって国会が議論につつまれることがあるのか。


◇参考文献

高橋洋一氏の意見:
http://www.rieti.go.jp/jp/special/policy_discussion/07.html

菅副総理のブログ:
http://www.n-kan.jp/2009/12/post-1945.php

山形浩生氏の毎日新聞への記事:
http://cruel.org/mainichinet/mainichinet2009.html#deflation
(注:私が参考にしたのは上記URLの記事だけでなく、氏のWebページにはない新しい記事も含まれる。)

村上龍希望の国エクソダスisbn:4167190052

  • -

追記: 2010/1/4 誤記訂正(「高齢車」→「高齢者」)